2020/4/2

[42回] ビタミン・ミネラルは感染症予防の要


世界で4000万人もの尊い命が奪われた1918年大流行のスペインかぜ。その後も1957年のアジアかぜ (200万人以上)、1968年の香港かぜ (100万人以上)、2009年の新型インフルエンザ (2万人弱) と、これまで人類は4回のパンデミックを経験してきました。そして2019 – 20年、新型コロナウイルス COVID – 19が5回目のパンデミックとして世界中の人々を恐怖と不安に陥れています。また、今回の新型コロナウイルスと同じウイルスの一種によるMEAS (中東呼吸器症候群)、SARS (重症急性呼吸器感染症) のほか、エイズ、高病原性鳥インフルエンザ (A/H 1 N 1) なども新興感染症として世間を震撼させてきました。

紀元前から流行していた天然痘、14世紀のヨーロッパで1/4 ~ 1/3の人が命を落としたペスト (黒死病)、そして今でも静かな潜行を示す結核、毎年冬場に流行するインフルエンザなど、私たち人類はこうした 様々な病原微生物との闘いを強いられてきています。しかし、残念ながら戦いに完全に勝利したのは天然痘ただ一つであり (1980年WHOが根絶宣言)、引き分けから優勢に 持ち込むのが精一杯なのです。COVID – 19との闘いも人類側が優勢になる、つまり、パンデミックを終息させ、普通の風邪のレベルに落とし込むことが目標になります。

私たち一人ひとりができること

治療薬やワクチンの開発が待たれます。しかしそれをただ座して待つのではなく、自分が感染しない、他の人に移さないために私たちがやるべきことは、各自が免疫力を高く維持して感染を予防し重症化を防ぐことです。免疫細胞が多数常在する腸内の環境を整えること、十分な睡眠の確保、ストレスの回避・解消、適度な運動などは確かに効果的ですが、免疫力を高める栄養成分の確保 (食事サプリメント) が何よりも大切です。本稿では、免疫力強化のための基本かつ必須の栄養成分であるビタミンとミネラルについて、国際分子整合栄養医学会の提言をもとに提案します。

ビタミン・ミネラルの重要性

感染予防と重症化を防ぐためのビタミン・ミネラルの種類と推奨量 (国際分子整合栄養医学会提言 2020. 1)
1. ビタミンD3  2000IU (50μg)/ 日、当初の2週間は5000IU (125μg)
2. ビタミンC   3g / 日以上 (分服)
3. 亜鉛      20mg / 日
4. セレン      100μg / 日
5. マグネシウム   400mg / 日

どれも大切ですが、とくに1 – 3が中核になります。しかし、食事からだけではこの量の摂取は困難であることから、質の良いサプリメントを利用せざるを得ません。ちなみに、国内大手の健康食品メーカーの製品では、基本の1 – 3の合計は1日あたりおよそ100円程度になります。

ビタミンDは植物由来のD2、動物由来のD3があり、活性型とされるビタミンDは動物由来のD3の代謝型です。コレステロールを原料にして皮膚で紫外線に当たって作られるビタミンDもD3です。その働きは免疫の調整 (弱い人は高め、アトピーや花粉症、自己免疫疾患などのアレルギー疾患の人は弱める) のほか、骨を丈夫にしたり、動脈硬化、糖尿病、認知症、精神疾患や肥満、筋力低下の予防など多岐にわたることが分かってきました 。こうした多くの作用を有することから注目度の高いビタミンであり、今最も期待したい感染予防効果についても多くの研究報告がなされています。

問題なことに、ビタミンD3が充足している人はわずか2割程度であり、多くの人が免疫の維持ができていないのが実情です。青魚やサーモンに多く含まれていますが、新型コロナウイルス感染予防強化、重症化予防のためには食事だけでは足りません。たかがビタミンと思わずに、すぐにできる対策として検討したいものです。

[慈恵医科大学の研究]
小学生167人に1日にビタミンD3を1200IU投与、別のグループ167人にプラセボを投与した。A型インフルエンザ流行期の4カ月間でインフルエンザにかかったのは、プラセボ31人に対しビタミンD群は18人と42%減少した。

[米国エール大学の研究]
健康成人198人にビタミンDの血中濃度を測定した。血中濃度が 38ng / ml未満の被検者の急性ウイルス性呼吸器感染症は3ヶ月間で100件であったのに対し、38ng / ml以上の被検者の感染者は3件のみであった (望ましい血中濃度は40 – 80ng / ml)。ポリオウイルスに対する高濃度ビタミンC療法の報告以来、数十年にわたりビタミンCの感染予防効果の臨床的なエビデンスが蓄積されてきました。ビタミンCは強力な抗酸化作用やコラーゲン産生による美肌効果が知られていますが、ビタミンDとともに免疫強化の中核をなしています。体内滞留時間が短いことや下痢を起こすことがあるため、多く摂る場合ほど何度かに分けて内服したほうがいいでしょう。亜鉛は免疫力を高める働きのほか、味覚の維持、性機能や抗酸化力、代謝の亢進、皮膚や毛髪の健康の維持、ホルモンバランスの調整などの働きがある最も大切なミネラルの一つです。ビタミンD同様多くの人が欠乏状態にあります。

免疫力を高める

免疫増強による直接効果だけではなく、からだの様々な仕組みを活性化し間接的な効果も加算されるため、ビタミンD、Cに次ぐ栄養成分として考慮されます。牡蠣をはじめとして、チーズ (とくにパルメザン)、抹茶、ラム肉、納豆などに多く含まれているため、日々の食卓になるべく載せるといいでしょう。自分のからだは自分の力で守る。そのための栄養をこれを機会に考えてみてはいかがでしょうか。