2021/12/14

[52回] 青木まりこ現象


ドップラー効果、フレミングの法則、アルキメデスの原理などの物理化学分野、シーザーサラダ、ビーフストロガノフ、マルゲリータ、サンドイッチ、ジンギスカンといった食の分野、そして、モールス信号、ギロチン台、ボイコット、イナバウワー、アキレス腱など、様々な領域で提唱者や発見者の人名の付いたものがあります。
医学や健康に関してもたくさんありますので、本コラムではちょっとユニークな人名を冠する現象、効果、症候群をご紹介します。

□青木まりこ現象

友人;「ラーメン食うといっつも頭かゆくなるんだよな~。なるだろ?」 筆者;「なんねーよ。」大好きなラーメンを食べるときに今でも思い出すのが学生時代の悪友O田くんが頭をボリボリ掻きながらのあの言葉。確かに彼はどの店のどんなラーメンを食べてもそう言ってたように思います。とくに当時激辛で有名だった新宿コマ劇場裏の「オロチョンラーメン」では、大汗もかくので必発でした。


緊張すると尿意を催す、病院に行くと血圧が高くなる、ストレスが強いと眠れなくなる、雨が降りそうになると膝が痛くなる、車の助手席に座っていると眠くなってくるなどのからだの変化。一方、高いところ、狭いところに行くと怖くなる、天気が良いとテンションが上がり、悪いと下がる、ある音 (音楽) や匂い、見たもので~の気持ちになるなど、誰もが「~へ行ったら、あるいは、~をしたら~になる」といった心身に起きる何かしらの現象を経験しているのではないでしょうか。

1985年、ある雑誌の読者欄に20代の女性が投稿した「2-3年前から本屋さんに行くたびになぜか便意を催すようになった」という趣旨の体験談は、同様の現象を体験している人が少なからずいたことから大きな反響を呼び話題になりました。その後特集記事が組まれたり、さまざまなメディアで取り上げられたりしたことから、国外でもAoki Mariko phenomenon (青木まりこ現象) として知られるようになっています。
ある調査によると、男性よりも女性、年代では20-30代に多いそうです。本を扱う図書館に行っても同じ現象がみられる人がいる一方で、本屋さんの店員や図書館の職員にはそうしたことはみられないようです。その原因については、紙アレルギー、インクの匂い刺激、条件反射、思い込み、自律神経過敏や、過敏性腸症候群、心身症といった一種の病気と捉えるなどの諸説があり、意見の一致はみていません。

腸は第2の司令塔と言われ、消化・吸収という消化管としての本来の役割にとどまらず、脳と密接な関係を結びながら神経系、免疫系、内分泌系 (ホルモン) の働きも担っています。腸内細菌叢が乱れ環境が悪くなると神経系を介してその情報が脳へ伝わり、うつや不安障害などの精神面の変調を来すことがあるほど、腸内環境の脳への影響は大きいことが分かっています。


青木まりこ現象は若い女性に多いようですので、便秘がち、あるいは、無理なダイエットで腸内環境が少なからず乱れている人が少なくないであろうことから、こうしたいわゆる「腸脳相関」にフォーカスした視点からも考えてみたいものです。また、便意は腸から脳へ向けてのシグナルであるため、乳酸菌や酪酸菌などを含む食品や、善玉菌のエサになるオリゴ糖、食物繊維を積極的に摂り腸内環境を改善することで、時間はかかりそうですが起こりにくくなるかも知れません。生活に支障を来している方は試してみてはいかがでしょうか。

□ディラン効果

「君とよくこの店に来たものさ  訳もなくお茶を飲み話したよ♪ 学生でにぎやかなこの店の 片隅で聴いていた ボブ・ディラン♪・・・」―昭和47年 (1972年)、札幌オリンピックがあった年の大ヒット曲、ガロの「学生街の喫茶店」。この頃青春時代を過ごしていた人は当時にタイムスリップしてしまう名曲ですが、この歌に登場する米国の世界的ミュージシャン、ボブ・ディランの名を冠する「ディラン効果」という現象があります。

コマーシャルの曲やフレーズ、気になっている歌や曲の一節などが突前出てきて耳 (頭)から離れず、脅迫的と言ってもいいほどに繰り返され思わず口ずさんでしまう現象「イヤーワーム効果:耳の虫効果」は「ディラン効果」とも言われています。これはシンプルでテンポが良く同じフレーズが繰り返されるものが多く、ある漫画の中で、ボブ・ディランの曲「風に吹かれて」を聴いていてこの現象が起こったとされたことから「ディラン効果」と呼ばれるようになりました。もしかしたら、「学生街の喫茶店」を聴いていた当時の若者の中には「ディラン効果」を経験した人が多かったかも知れませんね (?)。
なお、今も現役で活躍しているボブ・ディランは、2016年のノーベル文学賞に輝きました。彼が創作する作品は、曲の旋律とともに語られる歌詞もまた人々の心の琴線に響くのでしょう。

CMソングはまさにこのディラン効果を狙った企業のマーケティング戦略であり、私たちはまんまと無意識下で精神誘導されてしまっています。しかし、CMソングに限らず断ち切りたいと思うこともあり、その場合の対処法としては、ガムを噛んだり、CM曲以外の歌や曲であれば一曲通しで聴いて覚えてみることが効果的なようです。また、何かに没頭しているうちにいつの間にか耳から離れていくため、それほど不快に感じていなければ放っておいてもよさそうですね。

□モナリザ症候群

顔かたちや体つき、立ち居振る舞いをちょっと見ただけで「モナリザ症候群」と診断できそうな人をみかけます。興味を引かれそうな症候群ですね。自律神経系自体の働きが弱くなったり、交感神経 (活動モード) と副交感神経 (休息モード) の切り替えがうまくいかなくなると、なにかしらの心身の変調・不調を招くことになりますが、Most Obesity kNown Are Low In Sympathetic Activity (肥満の人のほとんどは交感神経の働きが低下している) というのが「モナリザ症候群」です。

休息モードの副交感神経が強く、相対的に交感神経の働きが弱くなる状態が長くなるにつれ、活動エネルギー確保のため糖分や脂肪が使われなくなり皮下脂肪や内臓脂肪が増えていくことになってしまいます。モナリザみたいになりたい女性もモナリザ症候群にはならないように、活動性を高めていきましょう。週末のプチ断食や月1回の本格的断食は自律神経系の働きを高め、メリハリのある切り替えができるようになります。

バセドウ病、メニエール病、パーキンソン病、ハンセン病、シェーグレン症候群、ハンチントン舞踏病など、自分の名前が付けられた当人としては名誉なことでしょうけど、誰もがなりたいとは思わない病気の名前なので、同姓の他人の中には迷惑に感じている人もいるのではないでしょうか。
還暦を過ぎての久々の同窓会。「お前、もしかしてアルツハイマー?」。「そうだけど、そうでない!」。