2015/4/16
[15回] 敬遠されがちなアブラ : ノンオイルはノン老いる?
塩分・糖分・脂肪分―余分3兄弟の一員としてとかく敬遠されがちな「アブラ (油、脂)」。とくにダイエットに取り組んでいる女性や、メタボを何とかしようと考えているお父さんからは、不本意ながらも悪役、敵役のそしりを受けてしまっているのではないでしょうか。そこで本コラムでは、必要以上に嫌われがちな「アブラ」について、今話題の「ココナッツオイル」のお話も交えて解説いたします。
いろんな「アブラ」とその働き
一口にアブラといっても、常温では固形の脂 (fat) の飽和脂肪酸と、液体の油 (oil) の不飽和脂肪酸に大きく分けられます。さらに不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸のオメガ9系 (オリーブオイルやキャノーラ油など) と、多価不飽和脂肪酸の6系 (サラダ油や紅花油、コーン油、ひまわり油などの植物油)、3系 (亜麻仁油やエゴマ油、青魚の油) に細分類されます。カロリーについては、糖やタンパク質が1gで4 kcalなのに対し、アブラは9 kcalと倍以上です。
肉類や乳製品などの動物性食材に多い飽和脂肪酸は、摂り過ぎると動脈硬化を促進しますが、過剰な制限は脂質バランスが大きく崩れるため注意が必要です (動物性アブラと植物性アブラは1 : 1が理想です。魚のアブラは植物に近いため、魚の摂取で動物性アブラを摂っているということにはなりません)。
不飽和脂肪酸については、以前は健康に良いとされていた6系のリノール酸は、心臓病やアレルギー性疾患を悪化させる懸念があることがわかってきたので控えめにすべきです。色々な食材に含まれているため、あえて意識的にとり入れなくても、不足することはないと考えていいでしょう (多くの方は、むしろ過剰と考えられています)。9系のオリーブオイル (オレイン酸) や3系の青魚の油 (EPA、DHA) は、アブラなのに動脈硬化を抑えてくれる働きがあります。さらに、EPAやDHAは動脈硬化の予防や改善作用のほか、脳の活性化やアレルギー体質の改善など、まさにアンチエイジングな様々な働きがあることが知られていますので、積極的に摂取したいものです (カロリー過剰にならないために、オメガ6系を制限して3系を意識的に増やす) 。
アブラは熱に弱く酸化や糖化を受けやすいことから、調理の際には使い分けが望まれます。比較的熱に強いオメガ9系のoil (オリーブオイル、キャノーラ油) を揚げ物、炒めものなどの調理油として、熱に弱い3系は仕上げやドレッシングのoilとして使うのがいいでしょう。また、使い回しはなるべく避けたいものです。
トランス脂肪酸に注意!
変質しづらいように人工的操作を加えて作られたトランス脂肪酸 (マーガリン やショート二ングなどに多い) は、身体の酸化や動脈硬化を促すことから世界規模で製造・販売規制がかけられつつある良くないアブラです。アブラの中には、このような明らかな悪役・敵役もいますので注意が必要です。
脂肪を急速に分解する『中鎖脂肪酸』とココナッツオイル
そして、今話題沸騰の「ココナッツオイル」。KEY WORDは「中鎖脂肪酸」です。アブラの多くは「長鎖脂肪酸」と言われるものであり、小腸から吸収された後、リンパ管から静脈を経て肝臓や、筋肉、脂肪組織に運ばれ体脂肪 (中性脂肪) として貯蔵されます。そして、必要に応じて (つまり、血糖値が低くなったとき) 予備エネルギー源として使われます。一方中鎖脂肪酸は、吸収後に肝臓に通じている血管 (門脈) から直接肝臓へ運ばれ、効率よく分解されてエネルギーに変換されます。長鎖脂肪酸に比べおよそ10倍もの速さで分解、燃焼されることからも、体脂肪にはなりにくいと言えます。
糖分が不足していない状態では体脂肪は使われにくいのですが、脂肪が分解されて作られるケトン体と呼ばれる物質が増えてくると、体内のエネルギー源の主体が糖分 (グルコース) からケトン体へと切り替わり、体脂肪が使われ燃焼されやすくなります。ケトン体は長鎖脂肪酸よりも中鎖脂肪酸からより多く大量に作られるため、中鎖脂肪酸の積極的摂取は体脂肪の分解・燃焼を促すことになります (ダイエット効果)。さらに、中佐脂肪酸には免疫力の強化、脂質や糖代謝の改善、認知機能の改善効果など多岐に渡る働きがあることも知られています。
ココナッツオイルは、KEY WORDの「中鎖脂肪酸」の含有量が他の植物oilに比べて多く、その成分のおよそ2/3を占めています。そのため、上手に使えば様々な体調不良や病気に効果的ですが、逆の見方をすれば成分の1/3は中鎖脂肪酸ではない動物性アブラであるということを考えないわけにはいきません。ココナッツオイルに限らず、過剰摂取はメリットを多く受ける反面、デメリット (リスク) を大きく背負い込むことにもなりかねないのです。 会社経営と同様にリスクヘッジ (リスクの回避・分散) を考慮し、栄養療法が必要な病的な人は別として、使うのなら期限を切ったり、ほどよくじっくりと慎重に使っていくのがいいように思いますがいかがでしょうか。
「アブラ」との上手な付き合い方
いろいろな種類があるアブラ。アブラは上述した働きばかりでなく、若々しく健康に生きるために次に示すような大車輪の活躍をしています。「ノンオイル」の生活は「ノン老いる」とはならないように思われます。アブラを毛嫌いせず、アブラと上手にお付き合いしましょう。
1. 日々口にする食材にはいろいろな栄養成分が含まれている。これらの中には脂溶性のもの (水には溶けず、油脂にしか溶け込めない性質の栄養成分;一部のビタミンやカロテノイド、ポリフェノールやコエンザイムQ10など) も多くあるため、アブラ不足の食事ではそれらを十分に吸収できなくなる。
2. アブラの役割が果たせなくなる
[細胞の形状・機能維持]
細胞膜の主成分であるため、不足すると形状を保ちづらくなる
→細胞が壊れやすくなる (皮下出血など)
細胞膜は、細胞内外間での様々な物質のやり取りや、情報の伝達、バリア機能を担っている
→脂質不足により細胞が十分に働かなくなるし、バリア機能の低下により有害微生物や有害物質のリスクにさらされる
[様々なホルモンの原料]
ステロイドホルモンなどのホルモンの分泌量が減少する (性ホルモン、抗ストレスホルモンなど)
[ビタミンDの原料]
コレステロールを原料に紫外線を受けて皮膚で作られる。がん予防、免疫力増強などの作用があることで注目されているビタミンDの体内生産量が低下する (ビタミンDは脂溶性なので、過剰な脂質制限により食事からの摂取量も少なくなるため、健康への影響は大きい)。
[エネルギー源]
脂質は糖質とともに必要不可欠なエネルギー源である。
脳のエネルギー源は糖質だけではなく、脂質由来のケトン体も使われる (脳は糖質よりも、ケトン体をより好むことがわかっている)。
[脳の機能維持]
脳の神経細胞膜とその関連組織 (軸索、ミエリン鞘) C27の主成分は脂質である。脳のおよそ50%は脂質であるため、脂質不足は脳機能を低下させる。