2015/9/28

[18回] イタリアの健康指南書「サレルノ養生訓」


「養生訓」と言えば「貝原益軒」。江戸時代中期 (1712年)、福岡藩の儒学者であった貝原益軒によって書かれた一般向けの養生 (健康) についての指南書です。健康長寿のための心身の養生についての心得は、300年の時を経て超高齢化社会を迎えた現代においても通じるところがあり、再評価されています。

今回ご紹介する「サレルノ養生訓」は、11世紀末、南イタリアのカンパーニャ州にあるサレルノ医学校で作られた衛生学の本に由来するものであり、そこには、食生活を中心に健やかに生きるための生活習慣について、全編ラテン語の詩の形で綴られています。サレルノ医学校の名声が高まるにつれ、様々な国の言葉に翻訳され広く知られるようになりました。イタリアを中心とする地中海沿岸諸国の食文化 (地中海料理) にも少なからずサレルノ養生訓の心得が反映されているようです。


11世紀末、十字軍遠征のときに立ち寄って名高い医学校の医師たちの助言を求めたイギリス国王ノルマンディー公への献辞とされる序文には、次のように記載されています。

サレルノ医学校一同はイギリス人の王に書きます。
もしあなたがつつがなく健康に暮らしたいと望むなら深刻な悩みは捨て去りなさい。怒りは冒とく行為とお考えください。
生 (き) のワインはほどほどに、夕食は控え目に。晩餐の後では立ち上がるのも悪くはありません。午睡は避けなさい。
尿意をがまんしたり、肛門を無理に締めつけたりしてはいけません。
次のことをきちんと生かせば、あなたは長生きします。
医者がいないのなら、次の3つがあなたにとっての医者になりますように。
すなわち、朗らかな心持ち、休息、そしてほどよい食事です。

3つのポイント

1. 朗らかな心持ち心はからだの司令塔と言われるように、からだの健やかさは心持ちが大きく影響することはよく知られている事実です。Happy people live longer、つまり、幸せな人は長生きするという学術論文が示すように、こうしたポジティブな心持ちなくしては高いQOL (生活の質) を保ちながら人生を全うするアンチエイジングライフは始まらないと言えるでしょう。

2. 休息私たち人間は機械ではなく生き物ですので、身体活動による心身の疲労を休息により回復させるとともに、エネルギーを補充する必要があります。若さを保つ成長ホルモンは夜間睡眠中に大量に分泌されることから、午睡はなるべく控え、夜間の睡眠を十分にとりたいものです。ちなみに、長寿には6~7時間がよいそうです。

3. ほどよい食事「ほどよい」とは、多すぎず少なすぎずという「ほどほど」ではなく、その人の、その時々の状況にとって「ちょうどよい (適度)」ということであり、年齢、体格、体調などからその人にとっての適度は変わってくるということです。

「ほどよい」の心得

3つめの「ほどよい食事」の「ほどよい」は、食事以外の面でも然りであり、サレルノ養生訓全編に共通した心得になっています。
リスクヘッジ (リスクの回避、分散) は、会社経営と同様アンチエイジングの心得として重要なKEY WARDですが、何事もメリットを求めるあまり偏りすぎることなくその背後にあるかもしれないリスクを集中させない「ほどよい」心構えが、結局は確実で無難であるということなのでしょう。

食欲の秋、恋する秋。あなたもルスツリゾートで地中海料理に近いアンチエイジングディナーを楽しみ、ゆっくりと心身を休め朗らかな気持ちに浸ってみてはいかがでしょうか。

※ 今回のコラムは、サレルノ養生訓研究の第一人者であり、地中海料理に詳しい筆者の友人である佐々木巌医学博士 (ウェルネスササキクリニック院長) の「新サレルノ養生訓」のサイトから引用しました。