2015/12/6

[19回] 感情・気分の伝導


「人間にとって最大の敵は?」と問われたら皆さんはどう答えるでしょうか。癌や難病、伝染病などの重篤な病気や天災という答えが多く返ってきそうですが、「人間の最大の敵は人間」と考える方も少なくないように思います。その「人間」ですが、「幸福論」で知られているフランスの著名な哲学者アランは、他人というよりも自分自身こそが最大の敵であると述べています。人間は感情の生きものと言われるように、私たちのどんな行動も感情の影響を受けています。感情あるいは気分を野放しにしていると、ときには好ましくない状況にどんどん陥っていき、自分が置かれている組織や社会、そしてそこに関わる人々にも少なからず影響を及ぼしていくことはよく経験することではないでしょうか。

「気分の伝導の法則」


他人との関わりには、様々な感情がその背景にあります。その時どう感じたか、どういう気分であったかは、それが強いほど表情や態度に現さなくても、言葉として口にしなくても周囲に伝わっていく、つまり、感情 (気分) は伝導することが脳科学的にも解っています。「自分を愛してくれる人たちのためにできる最善のことは、自分が幸せになることである」とのアランの言葉は、幸せな気分でいると、その気分は電波のように周囲に伝わり共鳴していくということなのでしょう。

子供の好きな人に子供はなつき、犬好きの人には犬はシッポを振ってくれます。心のなかで嫌なやつだと思っていると、不思議なことに相手も同じように思っていることはよくあることです。脳のなかには大脳辺縁系という感情を司る部分があり、感情の波動の回路は外に向かい周囲と共鳴していくことになります。おっとり、ほんわかした風貌のマンボウという魚の周りには、傷ついた魚が寄って来てしばらく行動を共にし、癒されて離れていくのだそうです。マンボウの脳からは強い癒しの波動が出ているのでしょう。大脳辺縁系共鳴によって人が近づいて来るし、離れても行くことになります。良い波動を出して同調する人を引きつけ、よい人間関係を築いていきたいものです。

熱は高温側から低温側へ伝わり、それは温度勾配 (温度差) が大きいほど速くく伝わるーこれは「フーリエの熱伝導の法則」と言われるものですが、気分の伝導は逆です。つまり、不機嫌やうつなどのネガティブな気分はその逆の気分よりも周囲へ伝わりやすく、それが強いほど急速に拡がっていくのです。うつの人の周囲への影響が強いのは頷けますが、恋愛で熱を上げてもなかなか相手に伝わらないのもこの「気分の伝導の法則」なのかもしれませんね (?)。自分だけの問題にとどまらない気分―いつも上機嫌でいたいものです。

周りにも、自分のためにもまずは自身を上機嫌に

上機嫌でいるためには、ポジティブ思考であることがよさそうです。しかし、なかなかポジティブには考えられないという方も少なくないのではないでしょうか。そんな方にお勧めなのは、一日の終わりの就寝前にその日にあった「良かったと思うこと」を3つ書き出すという訓練法です。どんな些細なことでもいいので、なるべく具体的に書くことが大切です。感情の記憶はエンディング時の印象に影響されやすいため、たとえ嫌なことの多い一日であったとしても、最後は良い印象で終えようということです。つまり、「終わりよければ全て良し」です。

「Happy people live longer (幸せな人は長生きする)」と題する学術論文があります。幸せな気持ちは良好な人間関係をもたらすとともに、からだの内側も元気にしていくのでしょう。ぜひそうありたいものです。 ある専門医は、このタイトルを意識して「Fatty people live shorter (肥満の人は短命である)」と言っています。これもまた、然りですね。皆さん気をつけましょう。

[おまけ] 伝染性肥満!?


ハーバード大学から出された「肥満は伝染病のように広がる可能性がある」というドッキリの内容の学術論文があります。友人同士の一方が太ると、他方の肥満リスクが57%増え、これが兄弟姉妹では40%、夫婦では37%増加するというのです。ただし、友人関係については、一方が友達と思っていても他方がそうは思っていない場合は、リスクの増加はないことがわかったそうです。肉親は同じような生活環境 (とくに食習慣) にあるため理解できなくもないですが、元は他人の夫婦もだんだん似てくる (似たもの夫婦) と言われる以上に、あかの他人である友人間の肥満リスクが最も高いというのは驚きですね。

大脳辺縁系からの波動で共鳴し合える人を引き寄せるとき、願わくは太っていない人に来てほしいということになるのでしょうか。
どうやら肥満も自分だけの問題ではなさそうですね。