2018/2/23

[31回] やっぱり気になる糖分の正体 


三大栄養素のイメージは? 必要なものとは思いながらもなるべく控えたい「脂質」、なるべく摂りたい「タンパク質」、控えめにしたいけど本音は摂りたい「糖質」、といったところでしょうか。友人に例えると、悪友の脂質、良友のタンパク質、ジキルとハイドのような二重人格の糖質。どうやら糖質は相反する思いを抱かせるくせ者の栄養素のようですね。

そんな糖質は、ブドウ糖 (グルコース)、果糖 (フルクトース)、ガラクトースなどの単糖類、ショ糖 (スクロース)、麦芽糖 (マルトース)、乳糖 (ラクトース) などの二糖類 、 デンプン (スターチ)、グリコーゲン、食物線維 (ペクチンやセルロース等など) の多糖類に分類されます。また、単糖が3 ~ 10個程度結合した構造のものをオリゴ糖と呼んでいます。

このように糖質にはいろいろな種類があり、その中には食物線維も含まれているのです。いわゆる炭水化物は糖質と混同されがちですが、栄養学的には炭水化物から食物線維を除いたものが糖質です。また、単糖類と二糖類を「糖類」と呼びます。 塩分や脂肪分などとともによく使われる「糖分」という呼び方には、とくに定義はありません。

糖質とからだ – 糖質は中性脂肪の元

三大栄養素はそれぞれ大切な役割を担っています。タンパク質は内臓やホルモン、酵素などのからだを作る材料、脂質は脳組織や細胞膜などのからだ作りと、エネルギーの原料として使われており、糖質は車のガソリンのようなエネルギーの主原料として働いています。どれも欠かせない栄養素ですが、たとえ糖質を長時間全く摂らなくても血糖値がある程度保たれるのは、他の栄養素からの糖 質への変換ルートがカバーしているからなのです。しかし、この仕組みにも限度があることから、私たちのからだは脂質やその代謝産物のケトン体という物質をエネルギーに換えることができるようになっているのです。しばしば耳にする脳のエネルギーは糖質からしか供給できないというのは間違いであり、むしろ脳は脂質由来のケトン体をより好むということがわかっています。

十分な食料の確保ができなかった太古の昔からの進化の過程で、私たちのからだには脂質を貯めて飢餓に備える仕組みができていったのでしょう。そうした進化は、今や肥満やダイエット失敗の重要な仕組みになっているというのは皮肉ですね。糖質を摂ると太る、つまり、体脂肪が増えるのはどうしてでしょう。それは、エネルギ―として使われなかった糖質は、中性脂肪という脂質に変換されて体脂肪になるからです。ですから、食事後に血糖が上がった時間帯にからだを動かさないでいると、エネルギーは少しだけで済むため、余った糖質は皮下脂肪や内臓脂肪になっていくのです。食後5分経ったら席を立ってからだを動かすことをお勧めします。家事程度の軽い身体活動でも効果的です。

筋肉をつけて効率のよいダイエット!

ダイエットを始めるとき、カロリーを制限することを第一に考えますが、その際、糖質を減らすことを重視する人が多いようです。脂質は 1g 当たり 9kcal であるのに対し、糖質は半分以下の 4kcal ですが (タンパク質も 4kcal、アルコールは 7kcal)、糖質は主食として摂取する量が多いため、確かにその制限効果は少なくないでしょう。しかし糖質はジキルとハイドです。麻薬のような依存性を作りやすい代物です。とくにダイエット当初は、遠ざけるほど近づきたくなってくるのではないでしょうか。一方、脂質には糖質のような麻薬様の誘惑はあまりないため、その制限はそれほど難しくはなさそうですね。

ダイエットは肥満の解消や、もっと痩せてナイスバディになりたいという美容目的のために行われます。筋肉量を増やしつつ 体脂肪 (皮下脂肪や内臓脂肪) を燃焼させて削ぎ落とすとともに燃焼率を高めること、そして、新たに貯まらないようにすることが求められます。つまり、有酸素運動で脂肪を燃焼させ、筋トレで燃焼率を高めつつ、カロリーや糖質、脂質の制限により新たに貯蓄させない三面作戦が効果的です。


運動をやらずに食事制限のみでいくと、効果は十分に上がらないばかりでなく、断念したときのリバウンドは大きくなってしまいます。それは、運動を怠っていると、体温を作る工場である筋肉量が次第に減っていくことによります。つまり、体温を 36-37°に上げて維持するため毎日多くのカロリーを使う工場が少なくなり、自動的に消費される量が減少するということです。また、糖質を制限していくにつれ、貴重なエネルギー源の確保のため、脂質の体脂肪への変換・貯蓄効率が上がってしまうことも 問題でしょう。リバウンドにより増えた体重は全て脂質ですので、繰り返すたびに体は脂肪だらけになっていくことになります。怖いですね。筋肉量が多くなると、熱の生産量が増えるとともに血行が良くなるため体温も体表温も上がります。一方筋肉の乏しい人は肌は冷たく、低体温になりがちです。冷え性でお悩みの方は、とくに下肢の筋肉をつけるとよいでしょう。

糖質制限ダイエット やりすぎに注意!

近年、ロカボ (low carbohydrate : 低炭水化物) がダイエットや健康、美容目的でもてはやされています。程度の違いはあっても実践されている人は多く、もはやロカボは私たちの食生活に少なからず根差しつつあるようです。増加する糖尿病などの生活習慣病対策や、酸化 (さびつき)とともに病気や老化の危険因子として問題になってきている糖化 (こげつき : からだのタンパク質と糖質が結合することにより、糖化したタンパクの質的・機能的劣化をもたらす反応) を回避するためにも、確かに有効な方法の一つと言えそうです。

しかし、厳格な糖質制限は骨髄の造血幹細胞の減少をもたらす可能性があること、インスリンの効きが悪くなってメタボを招く恐れがあること、長期的に死亡率が高まる可能性があることなど、多くのリスクも報告されているので注意が必要です。 一日量として 100 – 150g (カロリー換算 400 – 600kcal) までが無難ではないかと思われます。癌の食事療法としての厳格なやり方 (20g / day 以下 ; カロリー換算 80kcal / day 以下のケトン食) は、他の栄養素の摂取に留意しながら数か月の期限を切って医師や管理栄養士の管理のもとに行われるべきであり、自己流ではよほどの自己管理力と注意力が必要になってくるのではないでしょうか。

賢い「果糖」の摂り方

また、ブドウ糖と同じ単糖類の果糖は、ブドウ糖のおよそ 10 倍も糖化を進めてしまうことがわかっています。異性化糖、具体的には「ブドウ糖果糖液糖」、「果糖ブドウ糖液糖」といった名前で、果糖は甘味料として飲料や氷菓などによく使われています。糖化の観点からみると、ショ糖 (砂糖 ; 消化酵素によりブドウ糖になる) のほうが格段にリスクは少ないと言えます。スポーツ飲料にもよく使われているので、飲む前に成分表記を確認したいものです。

糖化しやすい果糖は、確かに果物に多く含まれています。しかし、果物の糖質は果糖とそれ以外の糖質の混合であり、食物線維も豊富に含まれていることから糖質の吸収が抑制されるため、必要以上に気にする必要はありません。但し、とくに空腹時にジュースにして果物を摂取すると、一気に小腸に流れ込み効率よく吸収されることから、果物は塊で少しずつ食べ ことをお勧めします。

栄養素は胃酸や酵素により消化された後、主に小腸で吸収されていきます。ということは、吸収の場である小腸まで運ばれるのに時間がかかったり (胃から腸への移送遅延)、消化が不十分で吸収されにくかったりすれば (難消化)、結果として糖質 の体内への摂取量は少なくなります。食物線維の働きで移送遅延をもたらすのが「野菜を先に食べる」 主な目的であり、難消化成分を含む食材や食品は、吸収を抑える効果があります。また、タンパク質や脂質、酢などと一緒に摂取すると血糖上昇抑制効果がみられることもわかっています。

ハイレジ : 難消化性デンプン
ロカボに加え近頃はハイレジ (high resistance starch : 難消化性デンプン) という言葉を耳にするようになってきました。確かに、ロカボ+ハイレジに、食べる順番と食べ合わせに加え、有酸素運動や筋トレをシッカリやると、ダイエット効果は確実に高くなりそうですね。難消化性デキストリンもハイレジと同じようなものであり、様々なメーカーから「脂肪や糖の吸収を穏やかにする」といった効能の「トクホ」と呼ばれる飲料が流通しています。

ちなみに、ハイレジは米や豆、とうもろこしなどのデンプン質の多い穀類に多く含まれています。また、ご飯やジャガイモを冷やすと、難消化のデンプン質の量が増えるとされています。ご飯なら、あつあつの炊き立てではなく冷やご飯、ジャガイモならポテトサラダが良さそうですが・・・。

賢いダイエットで新たな自分へ

さあ、春はもうすぐ。
重いコートとアブラは脱ぎ捨てて、新年度を迎えてはいかがでしょうか!
最後に、肥満やダイエットに関する名言 (迷言) をご紹介しましょう。
・性格は顔に、生活はからだに出る
・丸くなるのは性格だけで
・食欲一瞬、デブ一生
・痩せの大食は存在するが、デブの小食は存在しない
・ダイエットに王道なし
太りたくないのなら、食べもののない子供たちのことを考えなさい。
そうすれば、太るほどは食べられなくなるはずです。
(オードリー・ヘップバーン)