2018/10/2

[34回] アンチエイジングのための断捨離


心身の健康やアンチエイジングについて考えるとき、私たちはからだに良いとされる食べものやサプリメントを摂ったり、ウォーキングしたり、ジムに通うなど、何かを加えたり始めようとします。そうしたプラスの行動ばかりでなく、禁煙や、間食、お酒、ストレスを減らすことなどに加え、今持っている、あるいは関わりのある有形無形の様々な不要なものを選別して、それらを思い切ってマイナスする行動についても考慮したいものです。つまり、プラス (足し算) とマイナス (引き算) のバランスの取れたライフスタイルにすると肩の荷が軽くなり、人生の旅も背負った荷物が負担になリ過ぎることなく歩んでいけるのではないでしょうか。

2010年の流行語大賞にも選ばれた「断捨離」は、ヨガの断行 (だんぎょう)、捨行 (しゃぎょう)、離行 (りぎょう) の3つの修行用語の造語であり、山下秀子氏がその著書のタイトルとして用い、ベストセラーになったことで広く知られるようになりました。「断」は不要なものを断つ、「捨」は不要なものを捨てる、「離」は執着から離れるということですが、単なるものの片付けとは違い、自ら作り出してきた様々なこだわりや執着からの解放を図り、他者との関係性も整理して身軽な人生を手に入れようというものです。
もったいないの心を持ち、義理を重んじる私たち日本人は、ものを捨てたり、人間関係を整理するのが苦手な人が多いのかもしれません。そうした心持ちや価値観は、知らず知らずのうちに足かせとなり、視野や行動が狭められていくことにもなります。身軽なアンチエイジングライフを構築しようとするとき、積極的かつ果断な引き算の行動である断捨離は、多くなりがちな足し算の行動とのバランスの均衡を図ることに大いに役立つでしょう。断捨離は修行に根差したものであることを考えると、これを見事に実践している人というのは、煩悩を絶ち悟りの境地に入った俗世の高僧と言えるのかも知れませんね。

ニコチンの他、ヒ素、カドミウム、ダイオキシン、過酸化水素、アンモニア、クレゾール、ベンツピレン、ニトロソアミンといった化学物質を4000種類 (そのうち発がん物質60種類) も含むタバコは、まずもって第一に断捨離すべき対象です。ニコチンへの依存性・執着性はヘロインと大きな違いがないほど強いため、それを断ち切る働きのある内服薬 (チャンピックス) が使われることが多くなってきています。こうした薬物療法に加え、毎日欠かすことなく続けてきて習慣化された喫煙行動からの脱却 (心理的依存 / 条件反射からの脱却) にも留意していくと、より確実に禁煙することができます。つまり、タバコを吸いたいという衝動にかられなくても、これまで吸っていた状況に遭遇すると、まるで条件反射のように勝手にタバコに手が伸びてしまいそうになることへの対策としては、従来の生活のパターンを変化させる対処が役に立ちます。つまり、喫煙とリンクしている状況 (場所やもの、時間など) を変えたり、とくに意識することなく当たり前のように行っている日常の行為・行動の順番を変えたり (例えば、洗面→着替え→朝食を朝食→洗面→着替えにする)、新たな習慣を取り入れることなどが有用です。


ほとんどの人は禁煙を決意したとき、一生タバコとは縁を切ろうと考えてしまいますが、その力みがかえってプレッシャーとなり失敗につながってしまうことは少なくありません。人は先が見えなかったり目標が遠すぎると不安になり、ついそこからそれてしまいたくなります。そのため、一生という遠いゴールに向かうのではなく、今日一日だけの禁煙を毎日続けていこうという負担の少ない気持ちで始めるといいでしょう。禁煙は一日一日の積み重ね (一日単位の禁煙) と考えれば、たとえ何かのきっかけで吸ってしまったとしても、その日だけの失敗として自分を許すことができます。失敗を気にせず気楽に始めることこそ、成功の最大の秘訣と言えるかもしれません。

私たちは誰もが様々な社会の中で色々な人と関わりながら生きているため、その人間関係を整理する断捨離はとても難しいことですが、身軽なアンチエイジングライフのためにはどうしても手を付けるべき最も重要な領域です。人間関係の重荷は、関わる相手の言動からきていることが少なくありません。自分の気持ちとして許容できる範囲や期待感からをその人の言動がはずれるほど、ストレスを感じ疎ましくなるのではないでしょうか。それは好ましいと思っている関係であっても起こりうることであり、自分の気持ちの許容範囲の中にありつつ求めに応じてほしいという相手への期待が強いほど、そうでない場合ストレスになっていくことになります。そんな人との付き合いをやめたくてもできない事情があるのであれば、「相手への期待」といういわば自分の勝手な気持ちの執着から離れることで、負担の少ない関係性に持っていくことができるのではないでしょうか。こうした心持で付き合う中で期待に沿う部分があれば、それで十分としたいものです。世の中十人十色、百人百色と考えましょう。


人生は、喜劇、悲劇など様々な舞台 (ステージ) の連続です。一つの舞台が終わればキャストも大道具も、小道具も変わります。舞台の途中であっても場面や展開が変わればそれらも変わっていくことになります。自分は主役であるとともに、監督であり脚本家でもあると考えれば、早い千秋楽にしてしまってもいいし、引っ張ってもいいし、配役を変えたり、気に食わないところをボツにしたりといった具合に、好きにマネジメントすることができます。悩んだり、行き詰まったりしたとき、主役である自分を離れ、監督、脚本家、あるいは観客という視点から客観的に自分の言動をチェックし全体を俯瞰してみると、行くべき道ややるべきことが見えてくるでしょう。

先に述べた相手への期待からの脱却に加え、こうした「人生は舞台の連続」という人生観と「客観視のスタンス」は、人間関係の煩悩を絶つ断捨離を実践する一つの有用な方法となるのではないでしょうか。「人生は手放した数だけ豊かになれる」(米国でベストセラーになったマルガレータ・マグヌセンの著書)。この言葉のように、思い切った断捨離で他者ではなく我が人生に期待したいものです。