2018/12/14

[35回] ポジティブ心理学


人間の心の障害や弱さといったネガティブなところに焦点を当てることが多い心理学研究の新たな展開として、近年「ポジティブ心理学 ; Positive psychology」が注目されてきています。ポジティブという言葉から「ポジティブシンキング」に結び付けられがちですが、そうではなく、人としてのよりよい在り方 (背景に幸せ感のある健全な状態 ; well – beingな状態) に導くための心理学です。つまり、ポジティブ心理学は、従来の心理学のアプローチであるマイナス方向に落ち込んだ心理状態をゼロに戻すということではなく、ゼロ付近からプラス状態にある心をさらに上に高めていこうというものです。

1998年、ペンシルベニア大学心理学教授のマーティン・セリグマン博士により提唱されて以来、その研究領域や応用領域は多岐に渡る広がりをみせてきており、今や心理学の重要な一分野として確立されています。ポジティブ心理学が目指すWell – beingな人生を歩んでいくために、次に示すPERMAと呼ばれる5つ要素を、日々の生活の中でできるだけたくさん実践したり、経験していくことが重要とされています。また、その際、自分の長所や強みを引き出し、それを活かそうと常に意識することも大切です。

1. Positive Emotion (ポジティブ感情)

喜び、感謝、安らぎ、興味、誇り、愉快、鼓舞、畏敬、愛、希望 – こうした感情は、well – beingな状態に導く重要な感情であり、幅広い柔軟な思考や行動変容を誘導し、人生上昇のスパイラルを生み出すことになります。人やツキを引き寄せるためには、何かに関心をもち、感動し、感謝する「3カン王」が大切であるとする北原照久氏 (世界的なおもちゃコレクター) の言葉は、ポジティブ心理学の核心を表現するものと言えるでしょう。関心を持った何かに没頭する (趣味に没頭する) ことは、次に示す二つ目の要素の実践ということにもなります。

2. Engagement (没頭)

「フロー」と呼ばれる時間の経つのも忘れて夢中になっている状態。アスリートたちの言う「ゾーン」に入った感覚。没頭できる何かを見つけることは、ネガティブな思考や行動を防ぎ、パフォーマンスの向上につながります。没頭できる趣味や運動を見つけ、さらには、仕事の一部にでもそうした部分を見い出せればいいですね。

3. Relationship (人間関係)

人間関係は幸福感の最も重要な要素です。他者とのかかわりなくして人は生きてはいけません。良い人間関係を築ければそれに越したことはありませんが、最も危険なのは人間関係自体の希薄化、つまり、孤独化です。どこかで誰かと繋がっている、誰かが見ていてくれるといった思いや感覚があるからこそ、そこには安らぎ、感謝、希望といったポジティブな感情が生まれ、それが力になっていくことになります。社会との接点やチャンネルはなるべく多く作り、維持しておきたいものです。

少なくても悪くはない人間関係を築き、それを続けるためには、相手に対する期待値を下げて接するのが一つの有力な方法です。つまり、不平や不満からくる人間関係の悪化は、こうあってほしい、こうしてほしいという自分勝手な相手への期待から起こってくることが少なくないため、そのハードルを下げておくということです。そうした接し方の中で、ハードルの位置を調整していくといいでしょう。

4. Meaning (人生の意味)

何が大切か、優先すべきは何か、目標は何かといったことを、長短のスパンで考えそれを実践していくことにより、健全な、Well – beingな人生を歩んでいけるということです。行動には必ず理由や動機があるため、行動の原動力となっているものを常に意識してみることも大切です。

5. Accomplishment (達成)

何かができるようになった、目標に到達した、夢をつかんだといった達成感により、人生が満たされていくことになります。達成、完遂、マスター、さらには、勝利は、ポジティブ感情を生み出す大きな力にもなっていくことでしょう。いろいろチャレンジしてみて、その一つでも満足できるところに到達できれば嬉しいですね。以上のPERMAを実践、経験するときに、次に示す人間が持つ24のキャラクターの中から自分の「強み」を見極め、それを引き出していくことが大切です。

知恵・知識 : Wisdom & Knowledge
1. 創造性
2. 好奇心
3. 向学心
4. 知的柔軟性
5. 大局観

勇気 : Courage
6. 誠実さ
7. 勇気
8. 忍耐力
9. 熱意

人間性 : Humanity
10. 親切心
11. 愛情
12. 社会的知性

正義 : Justice
13. 公平さ
14. リーダーシップ
15. チームワーク

節度 : Temperance
16. 寛容さ
17. 謙虚さ
18. 慎重さ
19. 自制心

超越性 : Transcendence
20. 審美眼
21. 感謝
22. 希望
23. ユーモア
24. スピリチュアリティ

自分の強みとなるキャラクターを活かした仕事に就いたり、社会活動に活かすことができれば、幸せ感のあるWell-beingな状態に近づいて、人生を歩んでいくことができるでしょう。

みなさんの強みは?