2019/11/7

[40回] ユニーク研究あれこれ


「床に置かれたバナナの皮を人間が踏んだときの摩擦の大きさの計測」- だから何なの?何の意味があるの?・・・と思わず苦笑してしまう日本人のこのユニークな研究に世界最高峰の賞が授与されました。それは、ノーベル物理学賞!・・・ではなく、イグノーベル物理学賞です。否定を表す接頭語のIgを冠するイグノーベル賞 (Ig Nobel Prize) は、「人々を笑わせ、そして、考えさせてくれる研究」に対して授与される1991年創設の国際的な賞です。日本人は上記の研究を含め、これまで13年連続で受賞しています。

最初の日本人の受賞は1999年の化学賞で、大阪の探偵事務所所長の「夫のパンツに吹きかけることで浮気を発見できるスプレーの開発」に対してですが、確かに思わず笑ってしまうこの賞に値する研究ですね。そのほか、2015年の医学賞「キスがアレルギー患者のアレルギー反応が減弱することを示した研究」、2016年の知覚賞「前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると、実際より小さく見える『股のぞき効果』を実験で示した研究」など、様々な分野で受賞しています。近年、本家のノーベル賞受賞者が増えていますが、イグノーベル賞についてもさらに連続記録を延ばしてほしいものです。

本稿では、公式に発表された様々な分野の学術研究の中から、ユニークで興味深い研究をいくつかご紹介します。

デブは伝染する? (米ハーバード大学)


友人同士の一方が太ると他方の肥満リスクが57%増え、これが兄弟姉妹では40%であった。友人間については、一方が友人と思っていても、他方が実はそうは思っていない場合はリスクの増加はなかった。双生児の研究により、老化や病気についての遺伝子の関与は25%、環境要因やライフスタイルが75%であることがわかっています。肥満リスクについても、遺伝子以上に環境やライフスタイルの影響が大きいということのようです。太りたくないのであればそうでない人と親友になるのがよいのかもしれませんね。でも、もし自分が太ってきても親友の体形がなんら変わらないのであれば、ちょっと心配。

友人にも遺伝的関連性 (米カリフォルニア大学)

遺伝子型と友人関係について調べたところ、アルコール依存と関連のある遺伝子型 (DRD2) を持つ人と、開放的な性格の遺伝子型 (CYP2A6) を持つ人が友人関係になる傾向があった。また、DRD2については、陽性同士と陰性同士が、CYP2A6については、陽性と陰性が友人になる傾向があった。つまり、酒飲みと開放的な人、酒飲み同士、飲まない人同士、開放的な人とそうでない人が友人になりやすい傾向がある。遺伝的な要因が社会の形成に影響し、同時にそれが人の行動にも影響を及ぼしている可能性があるため、組織づくりのとき、こうした関係性にも留意するとよいのかもしれません。

相手のなまりをまねると理解が深まる (英マンチェスター大学 & オランダラドバウド大学)

誰かと会話し理解を深めようとするとき、自分の話し方を相手の話し方に近づけようとする傾向がある。その際、例えば相手が腕組みして話しているときは自分も腕を組むなど、姿勢についても無意識のうちにまねてしまう。本研究では、被験者に聞き慣れないアクセントを交えて話された100の文章を聞かせ、その後、自分のアクセントで文章を繰り返してみた場合よりも、アクセントをまねた場合のほうが理解度がより高かった。このことから、あからさまではなく、気づかれない程度に相手にアクセントや姿勢を近づければ、より理解が深まるかもしれない。

「郷に入っては郷に従え」、「When in Rome, do as the Romans do.」という言葉があります。確かにそれに通じますね。でも、うまくやらないと逆効果になりかねないのでご注意を。

まぐれ当たりも記憶のなせる業? (米ノースウエスタン大学)

単なる思いつきで言ったことがまぐれ当たりではない場合もある、ということを示した研究。被験者に違う万華鏡画像をいくつも見せた後にどれであったかを識別するテストを行ったところ、十分な注意を払って見た画像よりも、注意をそらされながら見た画像のほうがむしろ正答率が高かった。また、画像に何らかの見覚えがある場合より、当て推量で答えた場合のほうが正答率が高かった。

このことから、自分が思っている以上に多くのことを実際には無意識の視覚記憶として持っていることがわかる。日常における様々な問題の答えを探すとき、意識的な記憶のみに頼るのではなく、無意識の記憶から出ているかもしれない直感・ひらめきも参考にすべきなのかもしれませんね。

薬指が長い男性ほど仕事ができ、女性にモテる


英国のケンブリッジ大学の研究では、人差し指に比べ薬指がより長い男性ほど行動力、情報処理力、決断力があり、リスクを恐れず挑戦する気持ちが強い傾向があるため、社会的に成功しやすく富を築きやすいことが分かっている。また、一時のロマンスの相手としても、一生のパートナーとしても女性には魅力的に映ることがカナダのマックギル大学の研究で示されている。人差し指と薬指の長さは同じくらいである女性と違い、男性の多くは薬指のほうが長いのですが、これは男児ほど母親の胎内でテストステロン (男性ホルモン) の影響をたくさん受けることによると言われています。女性で薬指が明らかに長い人は、活動的で社交性があり、運動能力も高い傾向にあるようです。女性が結婚相手を選ぶ際、薬指の長い男性は仕事が出来るのはいいとしても、家庭的ではないことや浮気の心配があるのは気がかりですね。

「体の左側がかゆいとき、鏡をみて右側をかくとかゆみが治まる」という研究が、2018年のイグノーベル医学賞に輝きました。これは、切断後にみられる幻脚痛の治療に使われるミラーセラピーが痒みにも効果的ということであり、誰もが試してみたくなる実にユニークな研究ではないでしょうか。2007年の平和賞は、ライト・パターソン米空軍研究所の「敵兵が互いに性的魅力を感じて同性愛行為を始めるという催淫性非殺傷兵器『Gay Bomb (ゲイ爆弾)』の研究開発」に対して授与されました。このようなことを国の研究機関が考えていたというのはビックリですね。