2021/4/13
[48回] Dreams come ・・・
昨晩、夢を見ましたか? どんな夢? その結末は?「夢のような・・・」、「夢にものぼる気持ち」といったポジティブな意味合いで使われることの多い夢ですが、悪夢でなければ見てみたい気もするのではないでしょうか。わくわくするファンタジックな夢、スリル満点なアドベンチャーな夢、ちょっとハラハラドキドキするミステリアスな夢、恋心がくすぐられるラブリーな夢、そして、現実的なリアルな夢。そんないろいろな世界感を体験させてくれる夢は、実は、見たという自覚がなくても毎日のように、しかも、一晩に何回も見ていると言われています。
睡眠は次第に深くなっていくノンレム睡眠 (からだも脳も休んでいる状態) から始まり、最も深い睡眠に達した後、今度は逆に浅くなっていってレム睡眠 (からだは休んでいるけれども脳は覚醒している状態) に移行します。これがおよそ90分くらいの周期で一晩に 3 – 5 回繰り返されています。レム (REM) とはRapid Eye Movement (速い目の動き) のこと、つまり、脳が起きていて目を動かしている状態です。一晩に何度かやってくる脳が起きているレム睡眠の時間帯に夢を見るのです。寝ているのに目がキョロキョロ動いているのは、まさに今レム睡眠の時間帯にあることを示しており、夢を見ている可能性が高いと言えます。そんな人を思い切って起こすと、夢を語りだすかもしれませんね。
脳は体験したことや見聞きした情報を日々整理しています。夢とは、脳が覚醒しているレム睡眠時に、情報整理の過程でそれらが断片的に脳内に現れストーリー化されたものです。つまり、脳内のジャンル別の記憶の引き出しに貯蔵される情報を出し入れして整理していく作業過程で、その断片が画像として再生されるのが夢なのです。嫌な気持や不安感をもたらす怖い夢・悪夢は、現実世界でストレスを感じたときに現れることが多く、そのネガティブな情報を適切に処理するためとも考えられていることから、取り立てて気にする必要はありません。しかし、PTSD(心的外傷後ストレス障害) の悪夢は現実の世界で慎重に対処する必要があるため注意が必要です。
できれば見たくはない悪夢、覚えていたくない悪夢は、寝る前のネガティブな思考が引き金になる可能性があるため、布団に入ったときには楽しい安らかな心持ちで眠りにつけばいい夢を見れるかもしれません。また、悪夢ではないにしても、自覚されていない身体の不調や病気が夢に投影されることもあることから、そんな夢を見たときは、念のためになにかしらの変調の兆しがないか気に掛ける必要がありそうです。
日ごろ将来の目標などを繰り返し想像していたり、寝る前に考えていたことが夢に出てくることがありますが、とくに幼少期では日々の体験の記憶だけでなく、現実には起こりえない想像したことも組み込まれて夢に出てきやすいようです。夢に出てくるキーワードの調査研究によると、学生では友達、学校、部活、サークル、遅刻などであり、高齢者では仕事、旅行、死、トイレといったキーワードが多いことがわかりました。成長していくにつれ、その時々の年代の現実的な夢を見るようになっていくようです。
人生80年とすると、その1/3-1/4の25年前後の時間は睡眠ということになります。そのうちの数年はレム睡眠の時間です。そんな長い時間を有意義に使えたらと考えたときに、とくに幼少期には、たくさんポジティブな体験をさせたり、楽しい心地よいお話を聞かせてあげたり、芸術に触れさせたりすることは、夢を通して人間形成に好影響を及ぼしていくことは想像に難くありませんね。ただし、無理強いは逆効果になっていまいかねませんのでご注意を。
大人になってもその時間を有効に使っていきたいものですが、明晰夢 (めいせきむ;Lucid Dream) がその役割をいくらかでも担ってくれるかもしれません。明晰夢とは夢であることを自覚しながら見る夢であり、記憶や学習能力の向上などの効果の可能性があることが知られています。
レム睡眠時は脳が覚醒しているとはいえ、日中起きているときと比べ脳内ネットワークを繋ぐ神経伝達物質のドーパミンや、セロトニン、γアミノ酪酸 (GABA) などが少ないことから、とくに明晰夢で見られるような比較的ビビッドな夢の画像が作られづらくなっています。現代人の多くがそうした伝達物質の合成のための栄養素 (とくにビタミンB6) が不足しがちであることも、明晰夢を見ることは少ない大きな理由になっています。
ビタミンB6が不足すると、うつ病でみられる気分の低下や不安、不眠といったセロトニン不足による症状が出てきやすくなります。そして、精神的にいつもネガティブな状態になっているため、嫌な夢、怖い夢を見がちになっていきます。
うつ病の背景にセロトニン不足、やる気が出ない、達成感を感じない、集中できない大きな原因はドーパミン不足、すぐ切れるのはGABA不足でもあることから、それらを回避するために栄養をおろそかにするわけにはいきません。図に示すようなビタミンB6をはじめとして、ビタミンB3 (ナイアシン)、葉酸、鉄といった栄養成分を多く含む食材・食品を毎日の食卓に多く載せるようにしましょう。そして、すでに陥ってしまったこうした体調不良や病的状態を薬に頼らずに本気で回復・改善を目指すのなら、良質の健康食品 (サプリメント ) の積極的利用を考慮することになります。
脳内での神経伝達物質の合成経路と不足時の症状