2022/12/31

[58回] 現代社会が抱える睡眠問題


睡眠に関する健康食品が昨今人気を呼んでいます。なぜ、今、睡眠への関心が高まっているのでしょうか。
睡眠は生活の質を支える極めて重要な要素です。しかし、複雑多様化し24時間臨戦態勢の現代社会では、体内時計が刻む本来の生活リズムから乖離し乱れを生じさせるライフスタイルになりがちであり、健康の維持に欠かすことのできない活動と休息のメリハリがつけづらくなっています。そのために引き起こされる疲労の蓄積や、様々な心身の変調・不調の解消のため、必要な時に必要なだけの休息や睡眠の確保が求められますが、それができにくい世の中でもあります。
そうなると個々の心身のパフォーマンスの低下により、プライベートな生活のみならず、取り巻く環境・社会 (家庭 / 学校 / 職場など) へも少なからず影響してくることになります。実際、若いビジネスマンはもとより、中年層でも睡眠の長さや質に満足していない人が増えていることから、睡眠は社会的な関心事になってきました。

睡眠の働きは、①脳とからだ (肉体) の休息、②脳とからだの成長・修復、③記憶の取捨選択と定着です。睡眠が不十分であると、これらの働きが低下します。赤ちゃんはおっぱいを飲む以外の多くの時間寝ています。その時間の中で①~③が精力的に行われますが、成長期を過ぎるにつれ睡眠時間が短くなることや、質が低下しその働きは弱くなっていきます。つまり、脳と肉体疲労の解消、トレスの低減、内臓や様々な体内システム・機能の成長と修復、記憶の定着などです。免疫力の修復と強化も主に睡眠中に行われます。
したがって、良質の睡眠をとることにより、頭がすっきりしてよく回るようになり、筋肉疲労がとれてからだが動くようになり、ストレスが低減して気分が上向きになり、ケガや傷が治り、髭が伸び、免疫力がついて風邪を引かなくなり、学業や仕事、スポーツの成績が上がり、活動的になって社会性が広がっていきます。
はつらつとした健やかな心とからだで様々な人と縁を結び、チャンスに遭遇する機会が多くなり、未来が開けていくことになります。つまり、睡眠は人生を動かす大きな原動力になっていると言えるのです。

睡眠は2つのパターンで構成されています。脳もからだ (肉体) も寝ているノンレム睡眠と、からだは寝ているが脳は起きているレム睡眠です。ノンレムから入って次第に深くなった後、今度は逆に浅くなっていきレムへと移行する睡眠パターンを、およそ90分くらいのサイクルでひと晩に数回繰り返しています。ノンレム睡眠の中でも深い睡眠は就寝してからの前半に多くみられます。朝が近づくにつれ睡眠の深さは浅くなっていくとともに、レム睡眠の時間が多く長くなっていきます。夢はレム睡眠のときに多くみられることから、朝方に見ることが多いのです。
7-8時間の睡眠の人は有病率が最も低いことが分かっています。一方、それよりも短い人や、逆に長い人は相対的に有病率は高くなり、肥満のリスクも高くなることが分かっています (短い人は肥満のリスクが50%アップ、つまり1.5倍になります)。しかし、睡眠は個人差があり必ずしも7-8時間にこだわる必要はありません。ナポレオンはshort sleeper、アインシュタインはlong sleeperであったことが知られています。自分にとって必要な睡眠の長さは、目覚まし時計をセットせずに気楽な気持ちで何日か心ゆくまで寝てみることで、大まかにではありますが、知ることができるでしょう。
睡眠は長さよりも深さ (睡眠深度) がより重要です。たとえ睡眠時間が短くても睡眠深度の深い睡眠ができれば (つまり熟眠できれば)、睡眠の目的は少なからず達成されたと言えます。しかし、睡眠時間の長さは、睡眠深度の深さが足りないのを補うことになるため、理想的には自分にとって必要な睡眠の長さの確保が望ましいでしょう。

睡眠改善のKEY WORDは「体内時計」です。体内時計の刻みと乖離し乱れた現実の時間を過ごしていくにつれ、体調の変調・不調、ひいては心身の病気を招くことになるのです。その大きな原因である現代社会がもたらす精神的・肉体的ストレス、そして、自然光を浴びず身体活動が乏しい閉鎖空間でのブルーライト (TV、パソコン、スマホなどのIT機器) が溢れる環境、こうしたことへの対処が問題解決のための重要な課題になります。もちろん食生活、身体活動 (運動) の見直しも大切でしょう。

体内時計に耳を傾け、現実の時間を同期させてそのリズムに可能な限り合わせていくナチュラルなライフスタイルづくりが求められるでしょう。

睡眠に関する情報
・夜型のライフスタイルの人は乳癌などの発癌や糖尿病、心臓病、メンタルの変調 (うつ病など)、アルツハイマー病など、様々な病気のリスクが高まることや、肥満のリスクが高まる。また、腸内の悪玉菌の割合が増える。
・脳が最も活性化するのは起床5-6時間後である。
・睡眠不足は男性ホルモン (テストステロン) 分泌の低下を招き、筋分解促進による筋肉量の減少や、脂肪ため込み増加により肥満リスクが高まる。
・睡眠不足は満腹ホルモンのレプチン分泌を低下させるため、食べ過ぎによる肥満や糖尿病などの病気が悪化する。
・夜中に途中で目が覚めても、照明はつけてはいけない。脳に朝が来たことを知らせる間違ったシグナルを送ることになる。
・短時間睡眠は学業成績の低下を招く(とくに女子)。
・体内時計では昼の13-15時は休息時間帯であるため、午睡はむしろ望ましい。ただし、15分以上だと睡眠深度が深くなるため好ましくない。眠れないなら、できれば静かで暗い部屋で目を閉じているだけでもよい。
・休日の寝だめはある程度の効果はあるが、体内時計との同調を乱すため2時間くらいまでとしておいた方がよい。