2023/2/28

[59回] よい睡眠のために


睡眠改善のKEY WORD「体内時計」。
私たちのからだの中には、脳の視床下部の視交叉上核にある中枢体内時計 (マスタークロック) と、消化管など様々な内臓に存在する末梢体内時計があり、マスタークロックの指揮のもとオーケストラのように相互連携で時を刻んでいます。体内時計は現実の時間より数十分長い (歩が遅い) ため、毎日どこかのタイミングでリセットして同期させていかないと、両者の間に乖離が生じ睡眠や体調の変調・悪化を招くことになります。

夜になって (暗くなって) 就寝の時間が来ることを知らせ、睡眠を維持するシグナルを脳に送るメラトニンというホルモンの分泌により、次第に眠くなり眠りにつくことになります。メラトニンは睡眠の前半に多く分泌され朝になって明るくなるにつれ減っていき、目に光 (とくに自然光ですが、照明でも) を浴びるとその分泌は停止します。毎日同じ時間に朝の光をしっかり浴びてメラトニン分泌を止めることで、体内時計に朝が来て活動する時間になったことを知らせ現実の時間に同期させることができるのです。一日が終わり暗くなってから新たな分泌が始まって次第に増えていき、朝の分泌停止からおよそ16時間後くらいに眠気がくることになります。例えば朝6時に起床した場合、22時ごろには眠くなるため (寝る時間ですよ、の合図)、そのタイミングで寝るのが望ましいと言えるでしょう。

季節による日照時間の変化を考慮しながら、日の出から時間が経ち過ぎないタイミングで、朝の光をたっぷり浴びての起床からスタートする一日が理想ですが、現代人、とくに働く若者の多くが夜型のライフスタイルになり、体内時計もそれに引きずられてしまっています。夜型の解消が難しければ、少なくても毎日の起床と就寝の時間を同じくし、起床時にはたっぷりの光を浴び、就寝の2時間くらい前からは寝るための準備をしたいものです。


TV、パソコン、スマホなどのブルーライトは、網膜への悪影響や目を介しての脳への刺激により睡眠へ導入されにくくなり、睡眠の深さを浅くしてしまうことから、少なくても睡眠の1-2時間前からは可能な限り避ける必要があります。朝から日中にかけてのブルーライト対策 (ブルーライトカットの眼鏡など) は望ましく、夜になって暗くなったら、よりしっかり行うべきです。窓近くのベッドは朝の光を浴びやすく睡眠に好影響を与えるため、その配置を考えることや、日中に自然光を十分に浴びておくと、夜のブルーライトの影響が緩和されるため、なるべくは日中に外出の時間を作りたいものです (ただし肌には良くないので、その対策を)。

深部体温の低下は、夜が始まり就寝の準備開始の時間が来たことを体内時計に知らせる合図になることから、入浴は就寝の30-60分前に済ませ、寝室の室温は下げて少し肌寒いくらいの温度にしておきたいものです。また、就寝の準備の段階から照明を少し落とし、寝るときは室内を真っ暗にし、空気循環を良くし (酸素が多いほど眠りやすい)、自分に合った寝具 (とくに枕) を用いることが望ましいでしょう。


朝や日中のコーヒーは自律神経 (活動モードの交感神経) を刺激し、からだの活動性を高めたり健康への良い効果 (糖尿病や肝臓病のリスクを下げることや、脂肪燃焼を高める、抗酸化作用など) があるためむしろお勧めですが、夜暗くなってからのコーヒーは避けたいものです。ココアは刺激にならないので、ホットココアで一旦体を温め、その後の熱放散による深部体温の低下を招いてくれるので問題はありません。ホットミルクはメラトニンを作るトリプトファンというアミノ酸やカルシウムが多いのでお勧めです。シークワーサーなどの柑橘類の果皮に含まれるノビレチンはマスタークロックの機能を高めることや、シジミに多く含まれる遊離アミノ酸のオルニチンは睡眠時間や質の改善、朝の目覚めを良くする効果があることから、食卓へのせることも考慮したいものです。
靴下を履いたまま床に就くのは、手や足からの熱放散による深部体温の低下を妨げるため好ましくはないでしょう。

日中は活動的な生活を送り、自然光を浴びて活動時間帯であるシグナルを体内時計にしっかりと知らせることは、活動と休息のメリハリをつけるために大切です。会社の閉鎖空間で座りっぱなしは良いとは言えず、ランチタイムや休憩タイムには少しでも外へ出たいものです。日中の活動性の低下は、免疫の要とも言える臓器であり脳との相互連携で健康を支えている腸のコンデションの悪化 (腸内環境の悪化) を招くことも問題です (腸は第2の脳 / 腸脳相関)。

食生活については、規則的に毎日同じ時間にとることと、内容に気を配る必要があります。およそ7-19時の間にその日の食事を済ませ、夜間を中心に空腹の時間帯をしっかり確保することは、体内で行われる様々な生体活動と休息のメリハリをつけ、末梢体内時計のリズムを整えることになります。また、十分な空腹時間 (10-12時間以上) の確保は、長寿遺伝子 (サーチュイン) を活性化することが知られています。消化・吸収に時間がかかる糖質 (単糖類、二糖類) や肉などの飽和脂肪酸は、就寝までの時間が十分にとれないときは控えめにすることが望ましいと言えます。運動については、有酸素運動は午前~夕方、レジスタンストレーニングは午後から夕方が体内時計の時の刻みに合っていると言われています。

睡眠の前半の深い眠りのときに、メラトニンのみならず、からだを作ったり修復したりする成長ホルモンが1日量の大半が分泌されることや (日中は食事のときや運動時に少しだけ分泌されます)、ストレスを低減させるコルチゾールという副腎からのホルモンは朝方のレム睡眠の時に多く分泌されます。また、レム睡眠では、目などから入った日中の膨大な情報 (ほとんどが無意識の情報) を取捨選択して必要な情報を定着させ、次の日に必要な情報をしまい込むスペースを空けておく作業をしています。夢は目覚めに近い朝方のレム睡眠のときに多く見ますが、それは起きて現実に戻る準備のためでもあるのです。ノンレム、レムともこうした様々な働きをそれぞれ行っていることから、相応の確保が必要でしょう。

本来、自分のライフスタイルは自分で決めるべきものです。しかし、社会環境がなかなかそれを許さないことや、ブルーライトの氾濫、そして、IT化のためからだを動かさなくても済むようになったこと、24時間臨戦態勢であり複雑多様な心ストレスにさらされやすい世の中であることなどの問題は、睡眠改善のための取り組みを阻むことになりがちです。

しかし、このままで過ごすことなく、立ち止まって今一度自身のライフスタイルを見直し、良質の睡眠がもたらしてくれるたくさんの恩恵をシッカリ受け取ってみてはいかがでしょうか。